和歌山から運転を支援!「運転すんの会せんの会」代表の作業療法士 鍵野さんに聞いてみた

 今回は、和歌山県で運転支援を広める団体として活動する「運転すんの会せんの会」の代表である鍵野将平さんに、取り組みに対する思いや大学院での運転支援にまつわる研究についてお聞きしました。

自己紹介

 和歌山県にある琴の浦リハビリテーションセンターで作業療法士として勤務しております鍵野将平です。普段は回復期リハビリテーション病棟、一般整形外科病棟、外来などの患者様に対してリハビリテーション(作業療法)を行っています。また働きながら大学院に通い、自動車運転支援に関する研究を進めています。


和歌山県で運転支援に対する様々な取り組みを行っておられるのですね!

取り組みを始めたきっかけやこれまでの経緯を教えてください

 きっかけは、運転支援に興味のある身内3人の小さな勉強会でした。しばらく勉強会を繰り返す中で「運転支援のことをもっとたくさんの方々に知ってほしい」という思いから講習会を開催することとなりました。和歌山県作業療法士会の広報を活用し公募をすると50人ほどの参加者が集まり、「運転支援に興味を持たれている方がこれほどいるんだ!?」と驚いたのを覚えています。その後、数回勉強会や講習会を継続する中で「今の取り組みだけでは対象者への実質的な支援には繋がらない」と感じ始めました。そこで、勉強会の参加者と運転支援に対するパンフレットを作成するプロジェクトを立ち上げました。

運転パンフレットの記事はこちら

https://www.asahi.com/articles/ASKDL3VLCKDLUBQU00D.html?iref=pc_photo_gallery_bottom

 パンフレットの作成過程をブログやFacebookなどのSNSで投稿すると、その記事がメディアの目に止まり取材を受け、そのまま新聞に掲載していただくこととなりました。新聞に掲載され多くの反響をいただいたことをきっかけに、教習所協会の方から連絡を受け教習所、免許センター、医療関係、県職員の方々と話し合う場を設けることができ、現在も継続しています。  

 この他にも、学会発表や講演会を通じた運転支援の啓発活動や、近畿地方における運転支援プロジェクトの立ち上げなど活動の幅を広げています。「運転すんの会せんの会」では、Slackというコミュニティアプリを利用した情報交換、月に1回論文の抄読会、勉強会、代表鍵野によるノーマイカーデーなどを行っています。会では参加メンバーがやりたい活動を自由に行えるようラフな雰囲気を意識して進めています。


-様々な取り組みを通じて鍵野さんが運転支援に対して情熱をお持ちなのがとても伝わってきました

運転支援へ情熱を注がれる鍵野さんの思いを教えて下さい

 私が運転支援に興味を持ったのはOT1年目の時でした。きっかけは医師から運転評価のオーダーが出たことです。運転支援は、初めてリハ部門で受けるオーダーだったため周りがとても慌てていたのを覚えています。そこで、「運転支援について我々はどのような評価をして、どのような関わりが必要なのか?これは、私たちの課題ではないか?」と感じ、運転支援に興味を持ちはじめました。その後、情報収集を始めると意外にも全国には運転支援を活発に行う施設が複数あることを知りました。そしてある時、県内で参加した現職者研修の講習会で運転支援の発表を聴講する機会がありました。その時に「和歌山県でも運転支援を行っている人がいるんだ」と感心し、すぐに発表者へ連絡を取りました。それから、情報共有を進める中で勉強会の立ち上げを行うこととなったのです。この出会いをきっかけに「運転すんの会せんの会」が始動しました。

 もう一つは、ある患者さんを担当した時の出来事がきっかけとなっています。

 運転支援の知識を蓄積し、外部での活動も盛んに取り組んでいた時期に、ある患者様の運転評価を行うこととなりました。評価を終え「運転再開は問題ない」と自信を持って判断し、患者様から医師に確認をとってもらいました。しかし、医師の判断は「運転不可」というものでした。私は自信を持って医師のもとへ送り出したにも関わらず、運転不可という思ってもみない結論となり、患者様が泣きながらその時の状況を伝えてくれた時に「私は勘違いしていた」「運転支援は1人ではできない。他職種や運転に関わる方々と連携をとりながら支援を行える仕組みを構築しなければならない」と痛感しました。私は自分が行っている“取り組み”に満足し、本当の意味での運転支援を行うことができていませんでした。この経験は今でも自分が活動を進める時の『戒め』となっています。


今までの活動を通して得たものや苦労したことを教えて下さい

 学生の頃から作業療法がどのようなものなのか腑に落ちていませんでした。それが、運転支援に関わることで作業に焦点を当てた実践を行うことができ、また様々な職種を巻き込んだマネジメントの必要性を学ぶことで、少しずつ作業療法が理解できるようになり、その魅力を体感しました。

 苦労したことは、支援を進める中で院内・院外問わず考え方や思いを理解し合う難しさを痛感したことです。他職種はもちろん同職種でも置かれる環境や立場によって考え方や思いが異なるため、コミュニケーションをとりながらまとめていくのにとても苦労しました(今でも苦戦しながら日々もがいています。汗汗)。 

 他には、ここ最近今まで一緒に取り組みを進めていた仲間が立て続けに新たなチャレンジに向けて、和歌山から羽ばたいていくのでとても寂しい思いでいます(笑)。


現在大学院で運転支援について研究されていますが、研究テーマとその内容を教えて下さい

 大学院での研究テーマは3つあります。
 1つ目は、四国運転リハプロジェクトで開発された【停止車両評価】についてです。この評価は作業療法らしい視点から作成されたツールで、運転支援をさらに発展させることができると感じています。現在は信頼性や妥当性の検証を通して、評価の更なる発展に寄与することができればと思い研究を進めています。

 2つ目は、運転に対する心理面の影響を解明する研究です。運転支援を行っていて、対象者の気分の浮き沈みなど心理面が大きく影響すると感じていました。そこで、オーストラリアの作業療法士が開発した【Adelaide Driving Self-Efficacy Scale(ADSES):アデレード運転時自己効力感評価】というツールを知り、日本でも活用できないか研究を進めています。

 3つ目は、人工関節置換術後など整形外科疾患の方への運転支援に対する研究です。整形疾患を持たれている方々のリハビリテーションを行う中で、運転に対する不安の声を多く聞いてきました。そのため、整形分野に対する運転支援をさらに盛り上げていきたいと考えています。研究では、人工膝関節術後と人工股関節術後の方に対して、ドライビングシミュレーターを用いてアクセル・ブレーキペダル操作の反応速度について検証しています。


鍵野さんが見据える今後の展望を教えて下さい

 1つ目は、運転リハ教育を確立していくことです。後からついてきてくれる後輩達が迷うことなく、そして誰かが欠けても運転支援チームを継続できるような環境作りを目指していきたいと考えています。そのため、まずは私が所属する病院で運転支援教育の計画・遂行を進めています。

 2つ目は、現在主に脳卒中者の運転支援を行っているのですが、今後は高齢者の方やその他の疾患の方への運転支援や運転が行えなくなってしまった方への支援に対する取り組みを行っていきたいと考えています。他にも、運転と就労、運転終活、運転と作業などのテーマで構想を練っています。

 3つ目は、「和歌山県から世界へ発信する」を目標とし皆様のお役に立てるような取り組みを行っていきたいです。

-鍵野さん、今回はたくさんのお話をありがとうございました!


こちらも合わせてお読み下さい

鍵野将平さんの作業療法士協会によるインタビュー記事

https://www.jaot.or.jp/ot_work/place/detail/26/

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